10.親の欲目というやつ

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***  市内のあちこちでちらほらと咲き始めた桜が満開を迎えたころ、やっと実篤(さねあつ)の仕事が落ち着いた。  それでくるみと相談して二人の仕事が定休日となる水曜日に、広島に住む実篤の両親へ婚約の報告を済ませに行ったのだけれど。 *** 「それで(ほいで)二人とも結婚したらどこへ住むつもりなんか?」  応接間のはずなのに書斎みたいな様相を呈する本だらけの洋間で。  何気ない感じで父・連史郎(れんしろう)に尋ねられた二人はグッと言葉に詰まったのだ。  それは、実篤自身ずっと考えていた事でもあったから。  贅沢な悩みかも知れないけれど、実篤もくるみも両親から引き継ぐ形で一軒家を所有している。  どちらも旧岩国市内と呼ばれる街の中心部からは少し離れた、いわゆる市町村合併で岩国市に組み込まれた地域で。  実篤の家がある由宇町(ゆうまち)も、くるみの住まいがある御庄(みしょう)も、かつては玖珂郡(くがぐん)と呼ばれる地域に位置していた。  今は広島県との県境にある和木町(わきちょう)を残すのみとなった玖珂郡だが、かつては結構広範囲をカバーしていたのだ。  今はどちらも岩国市由宇町、岩国市御庄と住所表記されるようになったけれど、実篤が不動産屋を営んでいる商店街のある麻里布町(まりふまち)や、そのすぐ近くに位置する市役所庁舎のある今津町(いまづまち)辺りを市の中心部と考えるなら、由宇も御庄も外れにあるイメージ。
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