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市内のあちこちでちらほらと咲き始めた桜が満開を迎えたころ、やっと実篤の仕事が落ち着いた。
それでくるみと相談して二人の仕事が定休日となる水曜日に、広島に住む実篤の両親へ婚約の報告を済ませに行ったのだけれど。
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「それで二人とも結婚したらどこへ住むつもりなんか?」
応接間のはずなのに書斎みたいな様相を呈する本だらけの洋間で。
何気ない感じで父・連史郎に尋ねられた二人はグッと言葉に詰まったのだ。
それは、実篤自身ずっと考えていた事でもあったから。
贅沢な悩みかも知れないけれど、実篤もくるみも両親から引き継ぐ形で一軒家を所有している。
どちらも旧岩国市内と呼ばれる街の中心部からは少し離れた、いわゆる市町村合併で岩国市に組み込まれた地域で。
実篤の家がある由宇町も、くるみの住まいがある御庄も、かつては玖珂郡と呼ばれる地域に位置していた。
今は広島県との県境にある和木町を残すのみとなった玖珂郡だが、かつては結構広範囲をカバーしていたのだ。
今はどちらも岩国市由宇町、岩国市御庄と住所表記されるようになったけれど、実篤が不動産屋を営んでいる商店街のある麻里布町や、そのすぐ近くに位置する市役所庁舎のある今津町辺りを市の中心部と考えるなら、由宇も御庄も外れにあるイメージ。
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