10.親の欲目というやつ

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「……ええも何も。それが一番効率がえかろうが」 「そうよ(ほうよ)実篤(さねあつ)。あんたのことじゃけ、どうせ要らんことアレコレ考えて踏ん切り付けれんかったんじゃろうけど……お父さんもお母さんもあんたとくるみちゃんが暮らしやすいんが一番ええと思うちょるんじゃけぇね? あんな(あんとな)古い家のことは気にせんと好きなようにしなさい(しんちゃい)」  連史郎(れんしろう)を補佐するように、ずっと黙っていた母・鈴子(すずこ)がにっこり笑う。 「父さんも母さんもあの家は本の保管庫にでもすりゃあええと思うちょるしの」  我が子らに文豪(ぶんごう)たちの名を付けるくらいの両親だ。  二人の馴れ初めにしても本が密接にかかわっている。  この家に来た時にも思ったけれど、前遊びに来た時より格段に本の数が増えていて……正直奥の間はヤバイ状態になっていた。  かつては応接間(ここ)にだって、本棚なんてなかったはずだ。 「じゃけどな――」  父親の背後の本棚を見るとはなしに眺めていたら、連史郎がくるみにちらりと視線を移して。  その声に気持ちを引き戻された実篤だ。 「くるみちゃんがお父さん、お母さんから引き継いだ家を守りたいっちゅう気持ちが大きいんじゃとしたら、男としてそれも汲んじゃげんといけんぞ?」  連史郎の言葉に、実篤のすぐ横でくるみが瞳を見開いたのが分かった。 「連史郎さん……」  うるっとした目で連史郎を見詰めるくるみの様子に、実篤の心は決まった。 「俺、くるみちゃん()に住むわ。とりあえず土地も家も買わん」
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