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くるみの方の親族は、彼女が生まれてこのかた会ったこともないような遠い遠い――それこそ他人と呼んでも差し支えがないような血縁しか残っていなくて……。
結局婚約した旨に関しては実篤の方の家族にのみ伝える形で終わったのだけれど。
遠い親戚より近くの他人とはよく言ったもの――。
親弟妹よりクリノ不動産の面々の方がくるみの婚約指輪に目ざとく気付いて、日々幸せな針の筵を経験させられている実篤だ。
「社長もとうとう妻帯者になる覚悟をなさいましたかぁ~」
しみじみと経理の野田に言われ、
「ええなぁ。木下さんのキラッキラの指輪見ちょったら、私も早ぉお嫁さん入りしとうなりました」
総務の田岡に華奢な左手をひらひらされてうっとりと瞳を細められた。
「木下さんの花嫁姿、絶対可愛いですいね? 和装ももちろんええんでしょうけど……俺は断然ドレス推しです!」
一時はくるみのことを狙っていた営業の宇佐川に「あのふわっふわで色素の薄い猫毛と、大きゅうていつでも潤んじょるように見える瞳にはウェディングドレスが絶対映えますって」と嬉し気に言われた時にはさすがに何か面白くなくて。「宇佐川、それ以上俺のくるみちゃんのアレコレ勝手に妄想したら減給じゃけんな?」と大人げないことを言ってしまった実篤だ。
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