11.遠い親戚より近くの他人

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「社長ぉ~。それ、公私混同、職権乱用、パワハラも(はなは)だしいですけぇね?」  途端情けない顔をして訴えてきた宇佐川(うさがわ)に、「バーカ。冗談に決まっちょろーが」と返しながらも冗談どころかバリバリの本心。心中穏やかならずだったのはここだけの話。 「もぉ、そんなに(そんとに)心配せんでも。誰がどう見ても木下(きのした)さんは社長に夢中(メロメロ)ですけぇね?」  宇佐川と同じく営業で、長年付き合ってきた彼女と二月に式を挙げたばかりの井川(いがわ)が、苦笑しながらそんな男達二人の間に割って入る。  新婚の強みなのか何なのか、やたら余裕ある態度に、思わず圧倒されて押し黙った二人だ。 「駐車場んトコで二人並んで仲良ぉパン売ってらっしゃるの(売りよっちゃってん)見よったらイヤでも分かりますいね」  井川に太鼓判を押されて「それじゃったらええんじゃけど」とほうっと吐息を落とす実篤(さねあつ)に、「ええ大人の男が(なん)情けないこと()うちょるんね。ドーンと構えちょきんさい!」と野田が背中をバシバシ叩いてきて。 「それで(ほいで)式はいつになさる(しちゃって)んですか?」  すぐさま、まるで皆の気持ちを切り替えるみたいに発せられた野田の言葉に、出来れば従業員一同総出で祝いたいのだと口々に皆から言われて、実篤は胸が熱くなって鼻の奥がツン、と痛んだ。  涙腺が緩みそうになるのを(まばた)きの回数を減らして誤魔化しながら、「十一月二十二日(じゅういちがつにじゅうにんち)――良い(ええ)夫婦の日にしよう思ぉーて式場押さえちょるんじゃけど」と壁にかかったカレンダーを眺める。  とはいえまだそれは今月――四月のものなので、数枚めくらないと十一月は見えない。
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