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「じゃったら次は私ですかね?」
現在付き合っている恋人がいる田岡が瞳をキラキラさせて、それに被せるみたいに宇佐川が「えー? 待ってくださーい。俺だってご縁が欲しいんですよぅ」と情けない声を出した。
「宇佐川さんは私より若いんじゃけ、先輩に先、譲りんちゃい」
田岡の言う通り。現在クリノ不動産で一番若いのは二十四歳の宇佐川だ。
「そう言われてですけど……俺と田岡さん、ひとつしか違わんじゃないですか」
田岡の言葉に果敢にも抗議の声を上げた宇佐川の鼻先に、「男の二十代半ばと女のそれを一緒にしちゃいけんのんは常識ですけぇね⁉︎」と田岡がビシリと指先を突き付ける。
「どうやら田岡さんに軍配が上がったみたいじゃね」
井川がそれを見て宇佐川の肩を慰めるようにポンポンと叩いて。
野田が「ちょい待って、みんな。何で先着一名様みたいになっちょるん? 花嫁のブーケトスじゃあるまいに、みんなまとめて良縁に引っ張られんちゃい!」と何とも頼もしいことを言ってくれた。
確かにその通りだと思った実篤が、そんな従業員らの様子を黙って見詰めていたら、田岡とふと目が合って。
「だけど未婚メンバーの中じゃあ年齢的に見て社長が一番年上じゃったけん、木下さんと上手く話がまとまったみたいでホンマ良かったです」
と、心からの笑顔をもらった。
実篤が、俺はホンマ良い従業員らに恵まれたな、と思ったのは当然だろう。
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