12-1.嵐の前の静けさ*

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 四月の終わり。  キッチンで二人、朝食の支度をしながら実篤(さねあつ)はすぐ横に立つくるみに声を掛けた。 「生クリームは無理でもホイップクリームなら常温でも割と大丈夫そうよね」  今朝はくるみが持ってきてくれたブリオッシュをサンドイッチにして食べようと言う算段になっている。  具材は卵やハムやチーズなどアレコレ用意してあったけれど、手始めにオーソドックスなクリームたっぷりのマリトッツォにチャレンジしてみたいと思ったのは当然と言えた。  普通のパンより砂糖や卵の割合が多い、フランスではリッチな菓子パンとして扱われるブリオッシュで出来たマリトッツォを、くるみは同窓会の席で試食して帰って以来アレコレと試行錯誤の真っ最中。 「何かうちの実験に付き合わせるみたいになってしもうてごめんなさい」  コロコロ艶々の、テニスボールくらいの大きさの可愛らしいブリオッシュをこんもりバスケットに入れて実篤の家へ泊まりに来たくるみに、実篤は「くるみちゃんが作るパンはみんな美味しいけん、大歓迎よ」とにっこり笑った。  実篤は甘いものが苦手だ。  そのことを知っているくるみは、ホイップクリームや生クリームを挟んだ甘いマリトッツォを実篤に食べさせることに大きな抵抗を感じているのだけれど。
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