12-1.嵐の前の静けさ*

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 中でもとりわけチョココロネは、実篤(さねあつ)にとって思い入れのあるパンだから。  くるみがクリノ不動産横にパンを売りに来てくれるようになって以来、従業員たちに結構な頻度でそれを買ってはプレゼントしているのだけれど。  従業員らもそのことを楽しみにしてくれていて、週に一度は休憩時のおやつのお供はくるみの木のチョココロネ、というのが定番付いている。  善は急げ。パンの配達が全て終わった後、くるみにクリノ不動産まで来てもらった実篤は、くるみとともに従業員らにマリトッツォの開発に手を貸して欲しい旨を伝えて。  皆から二つ返事で「むしろ大歓迎です!」と言うお墨付きをもらった。  そんな風にしてみんなで試行錯誤しまくった新商品のマリトッツォが美味しくないわけがないのだ。  コンビニなどで買える、生クリーム入りのマリトッツォにも引けを取らない美味しさだとお客さんたちから褒めてもらえて、くるみはとても嬉しそうだった。  そんなくるみの様子を見るのが実篤は本当に大好きで。 「社長が木下さんを見よーる優しそうな目、嫌いじゃないです」  いつもは〝気持ち悪い顔〟と揶揄(からか)ってくる田岡や野田が、そんな風に言ってくれるのも心地よくて幸せだなと思った実篤だ。  実篤自身、繁忙期を終えて割とすぐくらいからくるみの家への引っ越し準備として実家にある荷物の整理を少しずつ開始しているし、そう言うことをしているとどうあってもくるみとの共同生活を夢想せずにはいられない。  嬉し恥ずかしな結婚生活へ向けて秒読みを開始した二人は、今まさに幸せの絶頂期。  実篤もくるみも、ずっとこんな穏やかな日が続けばいいと心から願っていたのだけれど――。
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