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グゥー。
重低音で鳴り響いたその音に、そう言えば忙しさにかまけて昼食を食べ損ねていたことをふと思い出した実篤だ。
時刻は14時を過ぎたところ。
(何もこのタイミングで鳴らんでも良かろ……)
などと後悔したところでもう遅い。
盛大に存在を主張した、実篤の腹の虫の悲痛な叫びは、彼のすぐ前。涙目で呆然と立ち尽くしていた、エプロンに三角巾姿の可愛らしい女の子の耳にもしっかり届いてしまったらしい。
三角巾の中に収めるためか、おでこを出すように整えられた髪質は、猫毛でふわふわ。
少しウェーブが掛かったオリーブグレージュのそれは、肩にはかからない程度のゆるふわボブ。
甘い綿菓子を彷彿とさせる、怯えた女の子の前で鳴らすには、余りにも不躾な音だと実篤は年甲斐もなくも照れる。何ともバツが悪いではないか。
ここは「大丈夫じゃった?」とか「もう心配いらんよ?」とか言って彼女の緊張を解く方が先なはずだったのに、これ。
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