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五月十九日。
実篤は、バースデーケーキの入った小箱と、冷えたシャンパンを持ってくるみの家を訪れた。
たまたまその日は火曜日で、翌日水曜日が二人とも休日だったから。
当然泊まる気満々でチャイムを鳴らした実篤だ。
ちなみに宿泊用品に関しては、いちいち持って来なくてもくるみの家に常備してあるから必要ない。
「実篤さんっ、お待ちしちょりました」
チャイムを鳴らしたのとほぼ同時。玄関の引き戸がガラガラッと開かれて、エプロン姿のくるみがヒョコッと顔を覗かせる。
下手したらチャイムを鳴らすまでもなく扉が開いたのではないかと言うタイミングで、実篤はちょっぴり驚いてしまった。
「く、車の音がしたんで見切り発車で出て来ちゃいましたっ」
実篤の戸惑いを感じたのだろう。
くるみが照れたようにはにかむから。
実篤はケーキが入っている箱を持っているのも忘れて、思わずくるみを腕の中に閉じ込めた。
「ひゃっ。あのっ、実篤さっ、ケーキっ」
そこで慌てたようにくるみに言われてハッとしたのだけれど。
「中身、倒れたりしちょらんですかね?」
ソワソワと心配そうな顔をするくるみに、実篤も色んな意味でドキドキしてしまう。
(ヤバイ。今日もくるみちゃん、可愛すぎじゃろ)
とりあえず、と玄関先で靴を脱いで、実篤のために用意された大きめのスリッパをはく。
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