12-2.思い立ったが吉日?

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それで(ほいで)社長。最近はほぼ木下(きのした)さんのお宅へ入り浸ってらっしゃる(ちょっちゃって)感じですか?」  総務の田岡(たおか)美代子(みよこ)にニンマリされて、実篤(さねあつ)は「まぁ、そうなる……かな」とうなずいた。 「ええなぁ。もう(はぁ)すっかり新婚さんな二人じゃないですかぁ~。あーん、憧れるぅ~♥」  ほぅっと吐息を落とされて、実篤は心の中(それはそうなんじゃけど)と小さく吐息を落とす。  くるみと毎日のように一緒にいられるのは本当に嬉しい。  先日のくるみの誕生日だって最高に楽しかった。  でも――。  十一月の挙式までまだあと半年もあるのだと思うと結構長いなと感じて。  本音を言うとすぐさま式を挙げてしまいたいぐらいだ。  そんなことを考えていたらつい本音がポロリと口を突いて出てしまった。 「何で俺、十一月二十二日(にじゅうにんち)に式場の予約いれたんじゃろぉ。もっと()よぉにすれば()かった」  毎週木曜日にくるみがクリノ不動産横の駐車場にパンを売りに来てくれるのを裏方として手伝っていて、骨身にしみて実感させられてしまった。  客の中にはくるみ目当ての男が結構多い。  それはきっと、よそで販売をしていても言えることなんじゃないだろうか。  クリノ不動産で営業してくれている時はまだいい。  問題は、自分が目の届かないところでくるみが売り子をしている時だ。  いつ、自分よりもっと若くてかっこいい〝悪い虫〟に誘惑されるか分かったもんじゃないではないか。  そんな有象無象(うぞうむぞう)の前では、くるみの左手薬指にはまった婚約指輪は思ったほど効力がない様に思えて――。  婚約なんて、ある種の口約束みたいなものだ。  婚姻関係を結んだ夫婦と違って、結びつきが弱く感じてしまうのは自分に自信がないからだろうか。
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