12-3.キミの大事なモノを守りたい

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*** 「みんな今日は早めに帰ってええよ。って言うか帰りんちゃい」  そろそろ三時のおやつでも、という時間になると、雨脚だけでなく、少しずつ風も強くなってきて。  時折ゴォッと商店街を吹き抜ける風が、ガタガタと不穏な音を立てながら建物を揺らす。  クリノ不動産はアーケード下にあるから、窓ガラスを雨が叩くということこそないけれど、視線を転じれば歩道全体が軒下であるにもかかわらず、横殴りの雨のせいでびしょびしょに濡れていて。  普段なら、雨でもアーケード下なら濡れる心配もないので結構人が往来しているのだけれど、そんな状態なので通行人の姿もまばら。  夕方から夜半にかけて台風が通過すると言う予報は正しかったらしい。  さすがにこの悪天候。  繁忙期といえども、昼過ぎから客足はパタリと途絶えていた。  いつもは有線放送で静かなクラッシック音楽を流しているクリノ不動産だが、こんな日だから勘弁してもらおうと、それとは別にテレビを付けさせてもらっている。  国営放送にチャンネルを合わせているテレビは、今日は画面下部の方が仕切られていて、台風情報のテロップが常時流れ続けていた。 「完璧に直撃コースですね」  ちらりと画面に視線を走らせた野田が、吐息交じりにつぶやいて。  実篤(さねあつ)はそれを合図にしたみたいに従業員らへ帰宅を促した。  昼以降、大事を取って営業らにも皆、外回りには出ず、事務所に待機するよう命じていた実篤だ。 「じゃけど」  仮にも繁忙期にあたる九月。  帰ってもいいものかと迷う素振りを見せる従業員らに、実篤は外にちらりと視線を投げかけて続ける。 「この天気じゃけ、誰も()んいね。大丈夫よ」  電話ぐらいはかかって来るかもしれないけれど、家探しなんて病院や食料品を扱うスーパーなんかと違って緊急を要する用件じゃない。  何もこんな悪天候の中、わざわざ来店するような客はそうそういないはずだ。
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