12-3.キミの大事なモノを守りたい

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「社長はどうなさる(どうされちゃって)んですか? まさか一人残ってお仕事なさる(しちゃって)気じゃないでしょうね?」  皆の不安を代表したみたいに一番年配で古株の野田が言って、他の社員もうんうん、とうなずく。 (ホンマこいつらは……)  社長である自分が社員の心配をするのは雇用主として当然だ。  なのにクリノ不動産の面々は雇い主である実篤(さねあつ)の心配までしてくれる。  そのことが嬉しくてたまらなかった。 「戸締りやら片付けやら……。事務所周りの養生とかしたらちゃんと帰るけん。俺も家に可愛い妻を一人残して平気なほど気ぃ大きゅうないけぇ。――な?」  最後の「な?」は、だから安心して皆は今すぐ帰って欲しいと言う気持ちの表れだ。  わざと惚気(のろけ)るような文言を織り交ぜたのだって、従業員らの心をほぐすためだったのだが。  いつもなら「また気持ちの悪いお顔してから」などと突っ込んでくるはずの野田や田岡が反応してくれないからちょっとだけ調子が狂ってしまった。 「今日のことで給料天引きしたりはせんし、大丈夫じゃけん」  きっとそこじゃないんだろうな?と分かってはいたけれど、わざと社員らの気持ちを持ち上げるようにニヤッと笑って言ったら「それは有給切りますけぇ気にしちょりません」と皆が口々に言う。  期せずして口にしてしまった給料問題だったけれど、有休を切らせるのは実篤の本意ではない。  だから「バカじゃの。俺が帰れって言うたんじゃけ、休業手当つけるわ。野田さん、次来た時みんなの、それで処理するようにしてくれる?」とすかさず返しておいた。
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