12-3.キミの大事なモノを守りたい

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***  いつもより少し遅め。  十四時(にじ)過ぎまで頑張ってみたけれど、今日は悪天候のためか、客足がイマイチで。 (そりゃあそうよね(そういね)。うちじゃってこんな日に外へは出とぉないもん)  くるみが営む移動式パン屋『くるみの木』は、愛車くるみの木号のリアハッチを大きく開けて、そこから見える棚へ並んだパンを、お客さんたち自身に選んでもらう方式を取っているのだけれど、必然的。いつも雨の日にはちょっぴり売れ行きが鈍る傾向がある。  加えて、今日は風もある荒れ模様の日だ。  強い大型の台風十五号は、岩国(この辺り)には夕方から日没後にかけて最接近するらしい。  だが、すでに風と雨は強くなってきているようで。  下手をすると強風にあおられて車内にまで雨風が吹き込んでくるから。 (そろそろ潮時かな)  せっかく作ったパンを完売させられないのは悔しいけれど、いまは以前とは違って、実篤もいてくれる。  二人で食べれば結構すぐに消費出来るから、無駄にはならないはずだ。  それに、今夜は嵐。  もしかしたら停電などもあるかもしれないし、何もせずにそのままかぶり付くことが出来るパンは、あっても困らないだろう。  そう気持ちを切り替えたくるみは、そそくさと店じまいを始めた。 ***  バタンとリアハッチを締めたところでふと、朝いつも通りパンを焼いていたら、実篤(さねあつ)に「お休みせんのん?」と心配そうに顔を覗き込まれたのを思い出したくるみだ。
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