12-3.キミの大事なモノを守りたい

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 長さ約一.二メートル、高さ約八十センチのそれは、真ん中に蝶番(ちょうつがい)があって、トランクのようにパタリと観音開きにすることが出来る折り畳み式の船だ。  実は父・連史郎(れんしろう)が社長をやっていた頃にも、今回と同じように市内数か所が水害に見舞われたことがあった。  幸い事務所がある麻里布町(まりふまち)近辺も、由宇町(ゆうまち)にある我が家の辺りも無事だったけれど、平田付近へ営業に出ていた従業員が水に閉じ込められて立往生をして。  その時には地元の消防の手で助けられて事なきを得たのだが、それを踏まえて連史郎が社長の代から、クリノ不動産では災害用ボート一艘(いっそう)と、救命胴衣を従業員の人数分は確保するようにしている。  連史郎が消防団に入り、息子の実篤(さねあつ)が同じようにそうしているのも、そういう経験を踏まえてのことだ。  幸い以後災害用ボートを必要とするような事態に見舞われることなく過ごしてこられて。  十年以上経ったということで、初代のゴムボート式のものは廃棄して、実篤の代になって買い替えたのが今倉庫から取り出したばかりのオレンジ色の箱――折り畳み式の防災用ボートだ。  こちらは中古の軽自動車が一台買えてしまうほどの値段がするものの、消費年数が約二十年あるからゴムボートよりは長持ちする。  それに、いざと言う時を思えば、開いただけで使用可能なこのボートの方が便利だと考えたのだ。
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