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実篤は常日頃からこういう経費はケチってはいけないと思っている。
それは連史郎の教えでもあるのだが、父親に考え方が一番似ている実篤自身も、同じ考えだ。
この防災ボート、定員は四名なので従業員全員を乗せることは叶わないが、今回は最悪の場合くるみと自分が乗るだけだから問題ないだろう。
きっとこれも使うことなくいつか買い替えになるだろうなと思っていた実篤だったが、まさか役立つ日が来ようだなんて思わなかった。
実篤は雨のなか車を倉庫そばに着けると、最前列以外のシートを全て倒して荷室を確保した。
そこへ台車に載せて運んだボートを積み込むと、作業を終えた頃には横殴りの雨で全身びしょ濡れになっていた。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
実篤は車のシートが濡れるのも構わず、運転席に乗り込むと、エンジンを掛けた。
降り続く雨のせいで先程皆を見送った時より道路の水嵩が増しているけれど、それでもまだ十センチは超えていない。
くるみとは未だに連絡が取れないままなので実際彼女がどこにいるのかは分からないから。
実篤は普段くるみとの連絡に使っているメッセージアプリと、日本コミュニケーションコーポレーション(NCC)が提供している災害伝言ダイヤルサービスの両方へ『家に向かうけぇもし自宅におるなら動かんちょいて? 違うところにおるなら返信を残して?』とメッセージを入れた。
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