12-3.キミの大事なモノを守りたい

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 くるみは命綱を失ったような気持ちに駆られて絶望的な心境になった。 (じゃけど――)  こうなる寸前。携帯画面に沢山表示されていた〝家族〟からの通知を思い出したくるみは、こんなところでもたもたして溺れ死んだりしたらみんなを悲しませてしまうと思って。 (とりあえず高いトコ……)  そう自分を奮い立たせて何とか家屋の外に出ると、家の近くまでたまたま流れ着いていた瓦礫(がれき)を伝って、自宅の屋根の上へ登ることに成功した。  雨は未だにざぁざぁ降り続いていて。  台風の影響で降っている雨なので風も強い。  日が当たらないこんな悪天候の日に、吹きっさらしの屋根の上にびしょ濡れの状態でしがみ付いていたら、どんどん体温を奪われていく。  くるみは寒さと心細さで泣きたくなった。  ぎゅうっと身体を縮こまらせて屋根の上にうずくまっていたら、幻聴だろうか。実篤(さねあつ)に「くるみ!」と呼ばれた気がして。 「実篤……さん?」  ノロノロと顔を上げたらオレンジ色のボートがこちらへ向かって近付いてきているのが見えた。  ちゃんとエンジンも積んでいるんだろう。  水を掻き分けて進んでくるスピードが速い。  てっきり消防の人が助けに来てくれたんだと思ってホッとしたくるみだったけれど、暴風雨の音をかいくぐるようにして聞こえてくる声は、どう聴いても愛しい実篤の声で。
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