12-4.くるみの覚悟と実篤の決意

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 台風十五号は市内のあちこちに大きな爪痕を残して去っていった。  くるみの愛車『くるみの木号』も、くるみの実家も、それはもう惨憺(さんたん)たる有様で。  完全にエンジンが水に浸かったくるみの木号は廃車を余儀なくされたし、家の方も汚泥を取り除いたところで住めるようにするにはかなりの修繕が必要になりそうだった。  くるみがパンを焼くために使っていた業務用オーブンやパンを発酵させるための焙炉(ほいろ )など、様々な設備もみんな水没で駄目になっていて、今すぐパン屋を再開するのは困難そうで。  水が引いた後すぐ、くるみとともに家の様子を見に行った実篤(さねあつ)だったけれど、汚泥がすごくて長靴をはいた足が泥に捕らわれてなかなか前に進めなかった。    乾燥してきたらしてきたで歩きやすくはなったけれど、今度は細かくなった泥やカビが空中に飛散して衛生上好ましくないため、マスクが外せなくて。  畳や家具なども汚泥にまみれ、屋外に運び出して水道水で綺麗に洗い流しても一朝一夕には綺麗にはならなかったから……。  くるみと話してほとんどのものを廃棄処分しようと決めたのだ。  床などを剥がして汚泥を洗い流すのにも相当な労力と時間を要したし、何より家の主要な柱の一つに大きな亀裂が入って家自体が傾いてしまっていたから、とうぶんの間、御庄(みしょう)の家で生活するのは無理だと思われた。  ただ、幸いなことに二人には実篤(さねあつ)が住んでいた由宇町(ゆうまち)の家があったから。  とりあえずはそこに移り住もうということになったのだけれど。
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