12-4.くるみの覚悟と実篤の決意

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***  あの台風の日、実篤(さねあつ)は自分の車は小高い所に置いて、ボートでくるみの救出へ向かったので、彼の愛車――グレーメタリックのCX-8自体は無事だ。  シートこそ、汚れたままくるみと二人で乗り込んだのでドロドロに汚れてしまったけれど、それもすでに業者に頼んで綺麗に洗浄済み。  いま実篤はその車にくるみを乗せて、カーディーラーの元を訪れている。  くるみの愛車は先の台風で完全に水底(みなぞこ)に沈んで廃車になってしまったから。  今はパン作りのための機材がお釈迦(しゃか)になってパン屋自体を休んでいるくるみだけれど、自分が仕事へ行っている間、彼女に足がないのはやはり問題ありだと痛感させられまくりの実篤だ。  ――キミにも愛車が必要じゃろ?とくるみに話したのだけれど、案の定と言うべきか。  くるみは結婚式や事務所兼住居の新築工事も含め、これからたくさんお金がかかるのに、車まで()うてもらうんは申し訳ないと固辞してきた。  だが、そこだけは絶対に譲れないのだ彼女を説得した実篤だ。  実篤は車がないせいでくるみの行動に制限を掛けたくない。  それに――。 「ねぇそんなに(そんとに)気にするんじゃったらひとつ提案があるんじゃけど」  あえてくるみの名を呼び捨てにして実篤が告げた言葉に、くるみはもともと大きな瞳をさらに目一杯見開いて、「えっ……」と驚愕の声を上げた。
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