終章.最上級の愛をキミに

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「ねぇくるみ、さっきからずっとゴソゴソしちょるけど身体、大丈夫なん? つらく(しんどぉ)ない?」  数日前まで何もしていなくても真っ青な顔をして横になっていることが多かったくるみが、新居へ移ってきた初日だからだろうか。  やたらハイテンションにチョロチョロと動き回っているのが不安でたまらない実篤(さねあつ)だ。  引っ越し自体は体調がかんばしくなかったくるみの負担を減らしたくて業者に頼んでほぼ済ませてあったし、荷解きもあらかた実篤が終わらせていた。  それでも細々としたものはやはりくるみも手出しがしたいようで、今みたいにリビングへ飾るパネル選びに余念がないのだ。  三月三十一日――。  たまたま大安吉日だった今日は水曜日で、実篤が休みの日だったから。  三月十九日に引き渡しのあった新居へ、いよいよこの日から本格的に拠点を移そうということで、くるみを連れてきたのだけれど。  くだんのようにくるみがやたらとテンション高めではしゃぐから。実篤はそれが心配でたまらないのだ。 「え? 大丈夫ですよ。このところ気持ち悪いんもなくなって(のぉなって)食欲も戻ってきましたけん。うち、絶好調です」  そこでこぶしを振り上げるようにして元気、元気とニコッと笑うと、 「先の健診でも、順調にすくすく育っちょるって病院の先生も太鼓判押してくれたじゃないですか。――お忘れですか?」  言いながら、くるみがほんの少し目立ち始めたお腹を愛しそうにすりすりと撫でる。 「むしろ動ける時は動いた方が安産にも繋がる言われたん、実篤さんも一緒に聞きましたいね?」  大きな目でじっと見詰められた実篤は、「それはそうなんじゃけど」と小さく吐息を落とした。  今、くるみは妊娠五ヶ月目の、いわゆる妊娠中期。  前述のように少し前までつわりに苦しんでいたけれど、数日前から症状が改善されて調子がいいらしい。  胎動も感じられるようになって、実篤にもよく「あ! いま動いちょります」と触らせてくれる。
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