終章.最上級の愛をキミに

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*** 「そう言やぁもなかなか使われんで寂しいね」  リビングの窓から。  実篤(さねあつ)がふと社屋外の屋根付き駐車場に停められた、愛車横に並ぶ白い軽自動車を見てポツリとつぶやいたら、すぐ横に来たくるみが小さく吐息を落とした。 「ホンマに。折角前の『くるみの木号』と同じように移動販売が出来るようにしてもらったんに……しばらくお預けだなんて、凄く(ぶち)寂しいです」  台風後、新車を買おうと実篤が提案した時、贅沢だと渋ったくるみに、実篤は「新しい車も前の車みたいに移動販売が出来る仕様にして、車自身にもお金を稼いで(もろ)ぉたらええじゃ?」と提案したのだけれど。  くるみはその言葉に、実篤が思った以上に喜んでくれて――。  結局くるみはパン屋が再開できた(あかつき)には、定休日の水曜日を除く月曜から金曜は今まで通り移動販売に精を出したいと結論付けたのだ。 「うち、今まで通り配達を待ってくれちょるお客さんのこと、大事にしたいんです」  結果、新しく建てる予定の新居一階事務所内の、『くるみの木』販売ブースでは、基本的に冷蔵保存が必要な生クリーム入りの新作マリトッツォやフルーツサンド、サンドイッチなどを冷蔵ショーケースへ並べるに留めることで話を進めた二人だ。  冷蔵ものは店舗で、普通のパンは基本的には移動販売車で。  くるみからのたっての要望で、そういう住み分けをする形に計画を組み替えたのだった。
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