終章.最上級の愛をキミに

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 元々働き者のくるみは、十二月の中旬に新しい車が納車された頃にはまだ妊娠にも気付いていなかったから。  家が完成して厨房が使えるようになったらすぐにでも『くるみの木』の営業を再開するつもりで色々算段を練っていたのだけれど。  アレよアレよといううちに悪阻(つわり)に悩まされて日がな一日寝込むようになって。  パン作りはおろか、日常生活もままならなくなったくるみに、実篤(さねあつ)は始終オロオロしっぱなしの日々だった。 *** 「ようやく(ようやっと)体調も落ち着いてきましたけぇパンこねたりは問題なく(のぉ)出来る思うんですけど……。パン屋の再始動自体はおチビちゃんを産んで落ち着いた後の方がええですいね?」  順調に見えても妊娠中は無理をするとすぐにお腹が張ったりする。  お腹の胎児のことを思えばそれが一番得策に思えたのだけれど。  車庫の車を見下ろしながらくるみが切なげに眉根を寄せるのを見て、実篤は「そう(ほう)じゃね。寂しいけどその方が無難かも知れんよ」と彼女を(いたわ)わるように抱きしめた。 「じゃけど――」  そこでふと思いついたように告げられた実篤からの提案に、 「ええんですかっ。それ、凄く凄く(ぶちぶち)嬉しいです!」  くるみがキラキラと瞳を輝かせた。
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