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「どうぞ」
玄関からすぐの襖を開けて次の間に足を踏み入れた途端、焼きたてパンの香ばしい香りに包まれた。
今日はくるみ、団子を作ると言っていたからパンを焼いているとは思えない。
とすると、
(この良いにおいはくるみちゃんが仕事で毎日パンを焼くけん、家に染みついちょるんじゃろうか)
そんなことを考えていたら、振り返ったくるみに、「今から通るトコ、恥ずかしいけぇ、あんまりキョロキョロせんで通過してくださいね?」と言われてしまう。
(今から通るトコ?)
キョトンとする実篤を伴って、くるみが左手にある襖を開けると、そこは台所だった。
先の前置きは、生活感あふれるキッチンを見ないで欲しいと言うことじゃったんか、と納得した実篤だ。
「ホンマは座敷を抜けて仏間を通った方が見栄え的にはいいんですけど……」
そこでふと視線を落として一瞬だけくるみが表情を曇らせる。
仏間ということは、当然そこには仏壇があって、ご両親が祀られているんだろう。
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