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ご両親のこと、くるみからちらりと聞いてはいるけれど、他人にそう言うのを見せるのにはまだ躊躇いがあるのかな、と実篤は思った。
それに、もしかしたらご両親の写真を見たら、涙が出てきてしまう、とかあるのかも知れない。
くるみの言いつけを守って、なるべく周りを見ないようにして通った木下家の台所は、パッと見、実篤の生家と似たような造りになっていた。
けれど、さすが商売でパン屋を営んでいるだけのことはある。
パン生地を捏ねたり成形したりするのに使うんだろうか。
台所の真ん中に大理石の天板が乗った大きな台が置かれていて、それが実篤の家にはないものだったからとても新鮮だった。
キョロキョロしないように言われたから努めて見ないように気を付けはしたけれど、業務用のオーブンや、前がガラス張りになった 生地フリーザーなんかもちらりと見えて。
(何ていうか、見慣れんモンって勝手に目に入ってくるもんなんよなぁ)
なんて思っていたら、
「実篤さん、さっきからあちこち見よるでしょー?」
と顔を覗き込まれてしまう。
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