3.月が綺麗ですね

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***  仏間からのものだろうか。  台所を抜けた先にあった居間には、ほんのり線香の香りが漂っていた。  実篤(さねあつ)の目の前の引き戸は庭に面して大きく開け放たれていて、その先の縁側は薄らぼんやりと明るかった。  どうやら月光が降り注いでいるようだ。  縁側には三宝(さんぽう)の上に三角に折り畳まれた半紙が敷いてあって、綺麗にピラミッド状に並べられた団子とススキが飾られていた。  存外本格的に用意してあることに実篤(さねあつ)は感心してしまう。 「準備するん、大変じゃったじゃろ」  ほぅっと感心のあまり吐息混じりにそう言えば、くるみが頬をほんのり赤く染めてはにかむ。 「そんなに大変じゃなかったです。実篤(さねあつ)さんをおもてなししたかっただけですけぇ」  薄暗さに慣れてきた目が、月光の(もと)、とても愛らしいくるみの照れ笑いを浮かび上がらせた。 「――くるみちゃん、俺……」  思わずくるみに歩み寄って、先ほどまで握っていた小さな手を取れば、くるみが実篤(さねあつ)を間近でじっと見上げてきて「月が綺麗ですね」とウットリとつぶやいた。  二人とも屋内にいて、差し込む月光こそ感じられるものの、まだ月なんて見える場所には出ていない。  それなのに、だ――。
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