3.月が綺麗ですね

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 かつて文豪(ぶんごう)夏目漱石(なつめそうせき)が「I Love You(あいしてる)」をそう訳したというエピソードは結構有名だ。 (くるみちゃん、まさかそれを知っちょって……?)  などと思うのは自惚(うぬぼ)れが過ぎるだろうか。  そう思う反面、もしそうならば……とも期待してしまう。  その場合OKの際の常套句(じょうとうく)二葉亭四迷(ふたばていしめい)の「Yours(あなたのものよ)(死んでもいいわ)」だが、そう返すのは、男として何か違うじゃろと思った実篤(さねあつ)だ。  少し考えて、実篤(さねあつ)は「くるみちゃんと見る月じゃけぇ」と応えてみた。  これからもずっとずっとくるみと月を見ていたい、一緒にいたいという気持ちを込めたつもりだ。  だが、変化球が過ぎたのだろうか。実篤(さねあつ)の言葉に、くるみがピクッと肩を跳ねさせて、不安そうにじっと実篤(さねあつ)を見詰めてきた。  その表情を間近で見て、実篤(さねあつ)は覚悟を決める。 「……あのね(あんね)、くるみちゃん。もぉ気付いちょるかも知れんけど……俺、キミのことが好きなんよ。もし――もしも嫌じゃなかったら、その、……お、俺の彼女になってくれん?」  実篤(さねあつ)がそう言ったと同時、くるみがポロリと一粒涙を落として、嬉しそうに微笑んで、ギュッと実篤(さねあつ)に抱きついてきた。 「実篤(さねあつ)さん、凄い(ぶち)嬉しい! うち、もう(はぁ)わっ」  言われて、「いや死なんといて!」と思わず眉根を寄せたら、「物の例えですけぇ」とクスクス笑われた。  実篤(さねあつ)はくるみのその顔が、とても可愛いな、と思った。
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