3-2.月が綺麗ですね:こぼれ話

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***  一度は(ほど)いたはずの手を、再度実篤(さねあつ)にギュッと握られた上に見詰められて。  つい何の脈絡もなく「月が綺麗ですね」なんて昔の文豪(ぶんごう)の言葉を借りて愛の言葉を(ささや)いてみたのだって、そうやってどうにか吐き出してしまわないと、気持ちが溢れて止まらなくなりそうだったから。  ああ、でもまさかっ!  実篤(さねあつ)がその言葉の意味をだなんて、くるみには全くもって想定外だった。  でも、考えてみれば文豪の名前を付けられているような男なのだ。  分からない方がおかしかったではないか。 「月が綺麗ですね」  ――あなたのことを愛しています。 「くるみちゃんと見る月じゃけぇ」  ――キミとおると幸せじゃけぇずっと一緒におりたい。  実篤(さねあつ)からの返しをそう解釈してしまっていいものかどうか戸惑って、ビクッと震えて彼を見上げたら、実篤(さねあつ)が「キミのことが好きなんよ。もし嫌じゃなかったら、俺の彼女になってくれん?」とより直接的で明確な言葉をくれた。  くるみは、嬉しくて嬉しくてたまらなかったのだ。気が付いたら感極まって涙がポロリと落ちてしまうくらいに。  そんな、満月の夜の――。  実篤(さねあつ)出来事(こと)全貌(ぜんぼう)を知らない、くるみの心の中だけのこぼれ話。
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