1.木の下の子リス

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 差し出されたパンを受け取るべきか否か寸の()躊躇(ちゅうちょ)して、中途半端に手を上げたまま挙動不審に彷徨(さまよ)わせた実篤(さねあつ)の瞳が、眼前の女の子の視線とかち合った。  色素の薄い長いまつ毛が、先刻の涙でまだほんのちょっと濡れているように見える。  そのまつ毛に縁取られた大きなくりくりの目が嵌まるのは、クッキリと綺麗な二重まぶたの中。  赤みを帯びたオレンジにも感じられる、茶色い瞳(アンバーアイ)に吸い込まれそうな錯覚を覚えて、実篤(さねあつ)は急いでチョココロネを受け取った。 「――?」  と、包みをもらい受けたにも関わらず、やけに大きな目でじっと見つめられ続けて、実篤(さねあつ)は柄にもなくドギマギしてしまう。 (えっと……何なん、これ。どうすればええん?)  手の中のチョココロネと彼女を見比べたら、初めて小さく微笑まれて、実篤(さねあつ)は彼女の意図をやっと理解した。  きっと彼女は感想を欲しがっている――。
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