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その着ぐるみには人間だったときの名残を演出するためだろうか。
ボロボロに破れた体裁のタータンチェックのシャツを羽織らされた形になっていて。
セットで渡されたジーンズがダメージ加工になっているのも雰囲気を出すためだろうか。
いい年の大人が、こんな毛モジャな格好をさせられているだけでも恥ずかしいのに、この上さらに付け耳と手袋まで、と思ったら泣きたくなった実篤だ。
(くるみちゃぁ〜ん。二人きりのときならまだしも、何で狼男コスで俺ひとり、キミを待たんといけんのん? お願いじゃけぇ早よぉ来て!?)
そして一刻も早くこの状況から救い出して欲しい。
「ところで社長ぉ。木下さんは社長にこんな可愛らしい〝忠犬ハチ公〟の格好をさせて、ご自身は何のコスプレでいらっしゃるんですか?」
「いや、これ犬じゃなくてオオカミじゃけぇね!?」
ふと思い出したように田岡がつぶやいたのを受けて、思わず勢いよくそう返してはみたものの、心の中で「俺も知らんのんじゃけ聞かんちょって?」とは言えなかった実篤だ。
実際、実篤自身、それが楽しみで恥ずかしいこの格好を受け入れていると言っても過言ではない。
(くるみちゃん、頼むけん、俺をキュンとさせる格好で来てくれぇよ?)
この羞恥プレイの代償として、そう願ったからと言って罰は当たらんじゃろ?と思う実篤だった。
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