4-1.ハッピーハロウィン!―前編―

10/19

898人が本棚に入れています
本棚に追加
/470ページ
 その着ぐるみにはときの名残(なごり)を演出するためだろうか。  ボロボロに破れた体裁(ていさい)のタータンチェックのシャツを羽織らされた形になっていて。  セットで渡されたジーンズがダメージ加工になっているのも雰囲気を出すためだろうか。  いい年の大人が、こんな毛モジャな格好をさせられているだけでも恥ずかしいのに、この上さらに付け耳と手袋まで、と思ったら泣きたくなった実篤(さねあつ)だ。 (くるみちゃぁ〜ん。二人きりのときならまだしも、何で狼男コス(この格好)で俺ひとり、キミを待たんといけんのん? お願いじゃけぇ()よぉ来て!?)  そして一刻も早くこの状況から救い出して欲しい。 「ところで社長ぉ。木下(きのした)さんは社長にこんな〟の格好をさせて、ご自身は何のコスプレでいらっしゃるんですか?」 「いや、これ犬じゃなく(のぉ)てオオカミじゃけぇね!?」  ふと思い出したように田岡がつぶやいたのを受けて、思わず勢いよくそう返してはみたものの、心の中で「俺も知らんのんじゃけ聞かんちょって?」とは言えなかった実篤(さねあつ)だ。  実際、実篤(さねあつ)自身、それが楽しみで恥ずかしいこの格好を受け入れていると言っても過言ではない。 (くるみちゃん、頼むけん、俺をキュンとさせる格好で来てくれぇよ?)  この羞恥プレイの代償として、そう願ったからと言って罰は当たらんじゃろ?と思う実篤(さねあつ)だった。
/470ページ

最初のコメントを投稿しよう!

898人が本棚に入れています
本棚に追加