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通話ボタンを押したと同時、電話の向こうで『実篤さんっ、お待たせしましたっ』と慌てたように言うくるみに、「ちょっと待っちょってね」と声をかけてから、コソコソと田岡らから離れるように事務所の隅っこに移動する。
「――くるみちゃん、待たせてごめんね」
田岡と野田を視界の端に収めながら小声でくるみに声を掛けたら、
『実篤さん、お待たせしたんはうちの方ですけぇ、気にせんちょいて? ――あのっ、ところで車はどうしたらええですかね?』
と返ってきた。
今くるみがいるのは、どうやら毎週木曜にパンを売りに来ているクリノ不動産横の駐車場らしい。
「車はそこの空きスペースにテキトーに停めてもろうちょいたんでええよ。どうせうちの駐車場じゃけ」
言いながら、ブラインドが降りた事務所内からは見えないと分かっていながら、ソワソワそちらの方角を気にしてしまう実篤だ。
営業時間外になっている今、大雑把な話、1台ずつの駐車スペースを区切った白線無視でドーン!と斜めに停めてくれたって問題はない。
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