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『ごめんなさいっ。実篤さんっ。待ちきれんで来ちゃいましたぁ〜っ!』
電話口からそんな声が聞こえてきて、ブラインドが降りて外が見渡せないガラス戸の向こうから、コンコンとノックする音が聞こえてきた。
実篤は弾かれるように電源の切られた自動ドアに向かうと、ブラインドを半分ちょっと上げて、ドアの施錠を外す。
自動ドアのスイッチはオフのままなので、普通の引き戸のように手で両開きのドアの片側を押し開けると、ブラインドをくぐるようにヒョコッとくるみが顔を出して。
「くるみちゃんっ」
その屈託のない表情にほだされて、思わず声が出てしまった実篤だ。
「きゃー! 木下さんっ!?」
途端その声を聞きつけた田岡と野田がいそいそと走り寄って来て。
「こんばんは。お邪魔します」
ブラインドを、暖簾にするように手で押し上げながらくるみが事務所内に入ってくるのを、三人して固唾を呑んで見守る。
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