12-1.嵐の前の静けさ*

17/19

897人が本棚に入れています
本棚に追加
/470ページ
 くるみが選んだオオカミとウサギと言うデザインは、くるみとの初体験のきっかけになったハロウィンの仮装を彷彿(ほうふつ)とさせられて、実篤(さねあつ)はちょっぴり照れ臭い。 「あーん。やっぱり可愛いです! ねぇ実篤さん。オオカミとウサギ。うちらの門出にぴったりなデザインじゃ、思いません?」  だけどくるみにはそう見えているらしく、ニコニコと笑いながらご満悦で実篤を見上げてくるから。  実篤は「そう(ほう)じゃね」と答えるしかなくて。  そればかりか、クイッとそで口を引っ張られて、「オオカミさん、オオカミさん。一緒に暮らせるようになれたら、たくさんうちを食べて下さいね」と小悪魔なことを言われてしまう。  ケーキを手にしていなかったら「くるみちゃん!」と抱き締めていたところだ。  さっき傾いたかも知れないと心配されたばかりのケーキを、これ以上危険な目に遭わせるわけにはいかないではないか。  実篤は(くるみちゃん、もしかしてそれも計算ずくなん?)と思わずにはいられない。  力を込めすぎて、ケーキの入った小箱の持ち手をクシャリと変形させてしまってから、実篤は(いかん、いかん)と小さく吐息を落とした。 「と、とりあえず! これ、台所で中を確認してみんと」  グッと奥歯を噛みしめてくるみにそう提案すると、手にしたままの箱を掲げて見せて。 「あ。そうでした。……倒れちょらんことを祈っちょります」  くるみの気持ちをケーキに向けることに成功した。
/470ページ

最初のコメントを投稿しよう!

897人が本棚に入れています
本棚に追加