897人が本棚に入れています
本棚に追加
/470ページ
くるみが選んだオオカミとウサギと言うデザインは、くるみとの初体験のきっかけになったハロウィンの仮装を彷彿とさせられて、実篤はちょっぴり照れ臭い。
「あーん。やっぱり可愛いです! ねぇ実篤さん。オオカミとウサギ。うちらの門出にぴったりなデザインじゃ、思いません?」
だけどくるみにはそう見えているらしく、ニコニコと笑いながらご満悦で実篤を見上げてくるから。
実篤は「そうじゃね」と答えるしかなくて。
そればかりか、クイッとそで口を引っ張られて、「オオカミさん、オオカミさん。一緒に暮らせるようになれたら、たくさんうちを食べて下さいね」と小悪魔なことを言われてしまう。
ケーキを手にしていなかったら「くるみちゃん!」と抱き締めていたところだ。
さっき傾いたかも知れないと心配されたばかりのケーキを、これ以上危険な目に遭わせるわけにはいかないではないか。
実篤は(くるみちゃん、もしかしてそれも計算ずくなん?)と思わずにはいられない。
力を込めすぎて、ケーキの入った小箱の持ち手をクシャリと変形させてしまってから、実篤は(いかん、いかん)と小さく吐息を落とした。
「と、とりあえず! これ、台所で中を確認してみんと」
グッと奥歯を噛みしめてくるみにそう提案すると、手にしたままの箱を掲げて見せて。
「あ。そうでした。……倒れちょらんことを祈っちょります」
くるみの気持ちをケーキに向けることに成功した。
最初のコメントを投稿しよう!