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「……どういうこと? 悪魔って」
「言葉通りの意味だよ」
「なんで悪魔に?」
「私にも分からないの」
「……そもそも君は……本当に、僕の知っている君なの?」
「うん。優くんの恋人だった、柏木神奈だよ」
神奈。僕は一度もこの人にその名前を呼ばなかったのに、知っている。彼女の名前を。
「信じられないかもしれないけど、私は本当に、私なの。優くんに会いたくて、こんな姿だけど……来ちゃったんだ」
正直、こんなことはありえない。だって、死んだはずの彼女が悪魔になって帰ってきただなんて、絵空事にも程がある。他人に話せば笑われるか精神科に行けと言われるだろう。実際、僕自身信じられない。
だけど。それでも僕は、信じたかった。嘘でも本当でもどうでもいい。彼女が神奈であると信じていれば、失った喪失感なんて無くなるから。
「信じるよ」
「……優くん」
涙を大きな黒い瞳に浮かべながら、神奈は僕に手を伸ばした。あたたかい体温と柔らかな肌に包まれる。少しだけ羽がくすぐったい。ふわりと微かに神奈の香りがした。
神奈の腰に手を回し、抱きしめ返す。忘れかけていた感覚。もう二度とできないと思っていた。絶対に、今度は失いたくない。
「ねぇ神奈」
「なに?」
「今度はずっと、一緒にいよう」
「……うん」
泣き声混じりの僕の声に少しくぐもった声が返ってくる。それだけで、僕は一人じゃないんだと実感できた。
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