2人が本棚に入れています
本棚に追加
すっかり陽が落ちきった夜、バイトからの帰り。この後やることを考えながら玄関の扉を開けると、待っていたのは元カノだった。一ヶ月前に死んだはずの元カノ、いや別れてはいなかったから生きているなら今も彼女ではあるのだが。とりあえず、好きだったあの子が、なんなら今でも好きな子が目の前に立っていた。
「えっ……なんで……?」
思わず口から漏れた戸惑いの言葉と、床に落ちた鞄の音が同時に乾いた空気に響いた。
駆け寄って抱きしめたいくらいに込み上げる嬉しさと、そんなわけないという困惑。現実では見るはずのないものがあるという違和感、驚き、少しの恐怖。渦巻く感情で体が支配されてしまって全く動けない。
「……久しぶりだね、優くん」
間違いない、彼女の声だ。可愛らしい鈴を転がしたようなコロコロした声も意外と大人っぽい微笑み方も、僕を見つめる憂いのある瞳も彼女のものだ。
あの背中から生えている黒い翼を除けば、目の前にいるのは紛れもない、彼女なのだ。
「びっくりしたよね、ごめんね。私……悪魔になっちゃったの」
彼女の姿と声をした悪魔は悲しそうな嬉しそうな表情でそう告げた。
最初のコメントを投稿しよう!