追想

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 アルザはカーナムでのガランテ軍との壮絶な戦いの末に敗北、降伏した。捕らわれたフィデリオはガランテ王タレスに対し、自らの命と引き換えに家族の助命と民の身の安全を嘆願したが、タレスは聞き入れなかった。  フィデリオは即刻首を斬られ、間もなく王都トアイルンもガランテ軍の手に落ちた。都は略奪され、抵抗した者らは見せしめの為残虐な手段で殺された。囚われの身となった王妃と王子の処刑が決まり、多くの民が自由を奪われ、隷民としてガランテやその他の国へと連れ去られた。          ◇  王子は独房の中で、ただ為すすべもなく死を待つのみの身の上だった。ところが、ある日、一人の男が彼の前に現れた。死ぬまで忘れることはないだろう。その顔は仮面のように無表情で、そして鋼鉄のように冷たかった。壮年の域だろう年齢、縮れたプラチナブロンドと暗灰色の目。  男は一言も口をきかなかったが、それでもこの人物がガランテ王タレスであることは一目で分かった。  「お前がガランテ王タレスか?」  思いのたけをこめて睨み付ける王子。タレスは表情一つ変えない。だが、その言葉を聞きつけて扉の向こうから剣を片手に飛び込んできたのは、タレスを二十ほど若くしたようなよく似た面差しの若者だった。  「こいつ、無礼な口をきくな! 誰を相手にしてると思っているんだ? ぶった切ってやろうか!」  若者の大きな手が王子の首の根を掴み、もう一方の手では剣を突きつけられた。が、  「ケトール、待て」  と、タレスに制されて渋々引き下がる。しかし、ケトールと呼ばれた若者は怒りで激昂し、顔は真っ赤であった。  「お前はいくつだ?」  ケトールのことなどまるで念頭にないかのように、タレスはさらりと尋ねた。  「────十二」
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