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王子は憮然と答える。出来ることなら、口などききたくないといわんばかりに。
「十二、か」
タレスが繰り返す。彼の脳裏に、フェラン城にいる同じ年頃の娘の顔が果たして去来したかどうか。しかしながら、その表情からは何も読み取れはしなかったが。
「父上、もうよいでしょう。こんな子どもが何だと言うのです? どうせあと数日で死ぬだけのただのガキですよ」
背後でケトールが不満げに口を挟む。彼は一秒でも早く、この居心地の悪い独房から出ていきたかったのだ。
「父上のご命令さえあれば、数日後と言わず、今すぐにでもこいつの息の根を止めてやりますが?」
「そう慌てるな。殺すのはいつでも出来る」
と、タレスは腕組みをして、
「ケトール、お前にやってもらいたいことがある。この王子と似た背格好の子どもを 至急見つけてくるのだ」
「は?」
ケトールは口をあんぐりと開けて、
「それは一体────どういうことですか?」
「こいつは生かしておく。生かしてガランテへ連れていく。だが、アルザの王子には死んでもらわねばならぬ」
ケトールはもちろん、王子にも訳が分からなかった。何を言っているのだろう、この男は?
「お前の名は何という?」
タレスが尋ねる。王子は口をつぐんだまま、答えようとしない。ケトールに再び首を締め上げられて、
「────ラウルス」
と、やっとのことで答えた。
「その名を名乗らす訳にはいかんな。正式な名は何だ?」
「ラウルス・ナザルス・スレイン」
王子は、不意に不安を覚えた。タレスの意図が全く読めない。
「今日から、お前の名はラナスだ。隷民の一人として、フェラン城へ連れていく。ガランテ王の為に身を粉にして働くがよい。以上だ」
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