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溢れる恋心
帰り道、大和は初めて千鶴の家の最寄駅で降りた。今まで千鶴に頑なに断られてきたが、千鶴の過去がバレた今、隠す必要はなくなった。
大和と手を繋いで地元を歩く日が来るなんて……嬉しいのにどこか不安も残る。その表情に気付いたのか、大和が急に立ち止まる。
「どうした?」
「うん……なんか私が大和くんの隣にいていいのかなぁって……。地元に戻るとね、ここには地味だった昔の私が今も存在してて、その影から抜け出せない気がしちゃうんだよね……」
「……まぁ気持ちはわからないでもないけどな。俺も似たようなもんだし」
大和は言葉が見つからずに頭を掻く。大和自身も、この近辺ではヤンチャだった頃の印象を持たれることが多い。夜中に釣りに行って帰ってきても、朝帰りだと言われたこともあった。
すると大和の腕に千鶴が額をすり寄せる。その仕草が可愛くて、大和は思わず笑みが溢れた。
千鶴の頭を撫でてから頬に触れると、彼女は上目遣いで大和を見つめる。
「なぁ、お前が見てた俺のことを教えてよ。中学、高校って、俺は千鶴の目にどんなふうに見えてたのかなって思ってさ」
「……中学の時のことは手紙にいっぱい書いたよ」
「うん、それ以外にはないの?」
大和に言われ、千鶴は目を伏せ考え始める。
「意外と甘党で、部活の後には板チョコを一枚食べるのが習慣」
「あぁ、食べてた」
「実はバレーボールが苦手」
「そうなんだよ。ボールがあらぬ方向に飛んでくんだ……って、本当によく見てるな」
「……というか、見ることしか出来なかった」
大和が腕を出したので、そこに千鶴は自分の腕を絡める。大和は微笑むと、ゆっくり歩き始める。
「高校は?」
「……大和くんと同じ高校には行けなかったから、バスケの大会の日程を調べて見に行ったりしたよ。高校生になったら、大和くんの身長がどんどん伸びて、試合に行くたびにカッコよくなってくの」
「……確かにあの頃が一番身長が伸びたころだったかな」
「でもね、試合に行くたびに、隣にいる女の子が違ってた」
急に千鶴の声が低くなり、大和は驚いて彼女の顔を覗き込むと、目が据わったまま遠くを見つめている。
「えっ、あっ、まぁそういう時期もあったかな?」
「うん、大丈夫。大和くんはカッコ良かったし、それが当たり前の光景なんだなって見てた。どうせあの頃は大和くんに話しかけるつもりもなかったし、見ているだけで満足してたの」
「そっか……」
私なんか釣り合わないって思っていたのにな……今は隣にいることがこんなにも幸せなの。
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