命尽きるまで

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 傷口が、(えぐ)られる。怜は前置きしてくれたけれど、そのあまりの残酷さに、息が詰まりそうだった。  穏やかで、優しくて、例えるならば()いだ海のような。そんな怜が今、容赦なく私を刺し殺している。  血が、涙が、止まらない。 「これだけは信じてほしいけど、あの人とはまだそういう仲じゃない。これに関しては、僕の一方的な気持ちだから。もちろん、性欲だけっていうわけでもない。それはあくまで恋愛感情の中の一部で、その恋愛感情は尊敬とは別物なんだ。そこはちゃんと切り離して考えているつもりだよ」  私の顔をだらだらと濡らしていく涙を、怜は鬱陶しがることなく、そっと拭う。私が泣き止むまで、そうしているつもりなのだろう。  その(いたわ)りや慰めも残酷だと思ったけれど、その手を振り払うことはできなかった。 「…怜」 「ん?」 「もう一回だけ、抱きしめてほしい」  すると、怜の温もりが全身を包む。  それは心地良い温度で、心地良い嗅ぎ慣れた匂いのする、私のたった一つの居場所だった。  今まで本当にありがとう、大好きだったよ。怜が、小さく呟く。それは本当に小さかったけれど、それもまた、刃だった。  こんなに傷だらけになった身体は、どうしたら癒えてくれるのだろう。怜がいなくなったら、この身体は本当に壊れてしまうんじゃないだろうか。  だから私は、もう一度虚しい祈りを捧げた。  このまま、永遠に夜が続けばいいのに。朝なんて来なければいいのに。と。 【fin.】
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