命尽きるまで

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 いつものようにベッドの左半分で横になっている怜は、仰向けで目を閉じていた。  時刻は十一時半を回っている。今日は割りと歩き回ったから、少し疲れてしまったのだろう。  先に寝てしまったことに対して、怒りは湧かなかった。むしろ眠っていてくれたほうが、これ以上辛い思いをしなくて済むのかもしれない。  けれど怜は、私がベッドの右半分にするりと忍び込むと、そっと目を開けた。 「あっ、ごめん。起こしちゃった…?」 「ううん、ずっと起きてたよ」  そっか、と、私も仰向けの姿勢になって呟く。呟いた言葉が、暗い部屋の中で浮遊する。  いつもより夜の静寂が深い気がして、少し、怖くなる。  けれど、すぐ隣から伝わる体温は、確かに温かった。  この温もりも、今夜で最後だ。 「…今日、楽しかった?」  私は天井を見つめたまま、「楽しかったよ」と答える。質問の意図を探りたくなるけれど、きっと深くは考えないほうがいい。  もう、何も考えないほうがいい。考えを巡らせば巡らすほど、絡まっていくからだ。その糸のほどき方は分からなくて、私はただ、途方に暮れる。  よかった、と言いながら、怜は身体の向きを変えた。こちらを向いている。  今までだったら、呼応するように私も姿勢を変え、向かい合っていただろう。そしてそのまま、とろとろとした眠気が漂う中、他愛のない話をする夜がこれまで何度もあった。  深夜のテンション、というやつなのだろうか。くだらないことでも、馬鹿みたいに盛り上がったりした。何が可笑しいのか分からないけれど、笑いが止まらなくなることもあった。そんな夜が、楽しくて仕方なかった。
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