命尽きるまで

12/13

23人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 石のような私の身体に、そっと腕が回される。  やめて、と叫びたい気持ちと、ずっとそうしていて、と祈る気持ちが半々で混ざり合う。 「ずっと」は、この先死ぬまで、という意味だ。明日も明後日も、この日常が続いていってほしい。  それは、絶対に叶うことのない虚しい願いだ。絶対なんてない、とついこの間思ったけれど、これに関しては言い切ることができてしまうのだ。  現実が、怜が、揺るぎようのない「絶対」を、突きつけてきているのだから。  その刃による傷口から、見えない血が静かに流れ出す。けれど流れ出したのは血ではなく、涙だった。怜の前では我慢しようと思っていたのに、()き止めておけなかった。 「尊敬している相手が女性だから、その好意が恋愛感情だって思い込んでるだけなんじゃないの…?」  駄目だ、駄目だ。分かっているのに、私の意思とは裏腹に、抑え込んでいた言葉がこぼれていく。  とその時、視界が大きく動いた。  突如怜が、私に馬乗りになる。そのまま抱きすくめられ、首筋のあちこちに唇が落とされる。大切な何かを一つ一つ確かめていくように、怜は私の首にキスをする癖があった。  このまま、してもいいよ。でも私たち、明日別れるんだよね?怜は何を思って、今私に触れているの?怜なりに、名残惜しさでもあるの?  散らばった気持ちが、またぐるぐると頭の中を巡り出す。 「…残酷なこと言うよ。でも、分かってほしいから」  身体をほんの少し離し、でも私を見下ろす姿勢のまま、怜は言った。 「こんな風に澪加に触る時、してる時…いつの間にか、僕はあの人のことを考えるようになっていた」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加