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「澪加?」
はっと顔を上げる。隣を歩く怜の横顔が、夕焼け色に染まっていた。
「あっ、ごめん…ぼーっとしちゃった」
ふっと、怜が笑う。どこか寂しげに見えるのは、気のせいなんだろうか。寂しいと思っていてほしい、という、私の願望が作り出した幻想なんだろうか。時間帯のせいもあるのかもしれない。
太陽が、もうすぐで沈む。今日という一日が、終わりに近付いていく。
「何か言ってた?」
「ん、ほら、本屋さん行って、ぶらぶらして、外でラーメン食べて、公園散歩して、移動販売のソフトクリーム食べて…って、本当にこれで良かったのかなって」
「どうして?全部ちゃんと、一番最初のデートで行った場所だよ?」
「そりゃね、あの頃は僕が貧乏だったからさ、あんな不甲斐ないデートになっちゃったけど。どうせなら、今日はもっとちゃんとしたデートのほうが良かったんじゃないかなって思って」
「もう、私の大事な思い出なのに。不甲斐ないの一言で片付けないでよ」
少しむくれたように言うと、そんな顔しないでよ、と苦笑されてしまった。そして、「でも確かに」と、夜の気配が混じり始めた空を見上げながら、怜は言った。
「大事だから、リクエストしたんだもんね」
怜の心が、分からない。どうしてそれを、わざわざ言葉にするのだろう。
ずるい、憎い、卑怯。そんな気持ちがふつふつと湧いてはくるけれど、それでも私は、怜のことが嫌いになれない。
いっそ、嫌いになれたら。いっそ、もっと酷い態度を取ってくれたら。そうしたら私も、離れたい、一緒にいたくない、と、自然に思えるのだろうか。
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