命尽きるまで

2/13

23人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「澪加?」  はっと顔を上げる。隣を歩く怜の横顔が、夕焼け色に染まっていた。 「あっ、ごめん…ぼーっとしちゃった」  ふっと、怜が笑う。どこか寂しげに見えるのは、気のせいなんだろうか。寂しいと思っていてほしい、という、私の願望が作り出した幻想なんだろうか。時間帯のせいもあるのかもしれない。  太陽が、もうすぐで沈む。今日という一日が、終わりに近付いていく。 「何か言ってた?」 「ん、ほら、本屋さん行って、ぶらぶらして、外でラーメン食べて、公園散歩して、移動販売のソフトクリーム食べて…って、本当にこれで良かったのかなって」 「どうして?全部ちゃんと、一番最初のデートで行った場所だよ?」 「そりゃね、あの頃は僕が貧乏だったからさ、あんな不甲斐ないデートになっちゃったけど。どうせなら、今日はもっとちゃんとしたデートのほうが良かったんじゃないかなって思って」 「もう、私の大事な思い出なのに。不甲斐ないの一言で片付けないでよ」  少しむくれたように言うと、そんな顔しないでよ、と苦笑されてしまった。そして、「でも確かに」と、夜の気配が混じり始めた空を見上げながら、怜は言った。 「大事だから、リクエストしたんだもんね」  怜の心が、分からない。どうしてそれを、わざわざ言葉にするのだろう。  ずるい、憎い、卑怯。そんな気持ちがふつふつと湧いてはくるけれど、それでも私は、怜のことが嫌いになれない。  いっそ、嫌いになれたら。いっそ、もっと酷い態度を取ってくれたら。そうしたら私も、離れたい、一緒にいたくない、と、自然に思えるのだろうか。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加