命尽きるまで

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「でも、不甲斐ないなりに、僕も大事だよ。全部、ちゃんと覚えてた」  だから、どうして。どうしてそういうことを怜は今言うんだろう。泣き出したい気持ちを、どうにかこらえる。  繋いでいた手を、そっと放した。 「ああ…もう家か」 「うん、あっという間だったね」  最初の再現をした、最後のデートが終わる。  私たちは、住み慣れた家に帰ってきた。  築年数が少し古めの木造アパート。二階の、廊下を進んだ突き当たり。その角部屋が、私たちの帰る家だった。  けれどこの家は、明日以降、住人を一人失う。怜は明日、この家を出て行く。 「けど、あのソフトクリーム屋さん、前よりちょっとメニュー増えてたね」 「ね。黒ごまソフトとかほうじ茶ソフトとか、美味そうだったなあ」  じゃあ今度一緒に食べようよ、なんて、思わず勢いで言ってしまいそうになる。けれど、それを言うことは(ゆる)されない。私たちに、今度はない。   頭では分かっている。怜とちゃんと向き合って、話はした。結論だって出た。ただ、感情が追いつかないのだ。  付き合って三年、一緒に暮らして二年。長い、という感覚はあまりない。気付いたら、それだけの月日が過ぎていた。怜はすっかり、私の日常の中に溶け込んでいた。  一人で過ごしている時より、怜といる時のほうが自然だった。身体が、軽かった。安心して呼吸をすることができた。私はもう、一人ぼっちじゃない。  この時間が、これからもずっと続いていくんだと思っていた。当たり前のように。
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