命尽きるまで

5/13

23人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「ちょっと、話があるんだ」  改まった口調で、怜からそう言われたのは二週間ほど前のことだった。  夕食を食べ終え、私はダイニングテーブルに座ったままテレビを見ていて、かたや怜はキッチンで食器を洗っていた。  キッチンから戻ってきた怜は、私の向かいに腰を下ろし、姿勢を正した。  いつもとは様子が明らかに違うことにはさすがに気付いていたけれど、この時の私は、呆れてしまうくらいにのんきだった。  まさかとは思いながらも、ある漢字二文字が、頭の中でぱっと灯った。 「別れたいって、思ってる」  その(あかり)は、一瞬で消えた。  怜が言おうとしていたことは、私が安易に思い浮かべた二文字の、真逆を行くものだった。  全く予想していなかった一言だったから、その言葉を脳が理解するのに少し時間がかかった。上手く、処理できない。  目の前にいるのは、確かに怜だ。ずっと一緒に過ごしてきた、怜。  怜は、一体何を言っているの?今日はオムライス綺麗に作れたねって、ついさっきまで話してたよね?澪加が作るコールスローは本当に美味しいって、さっき、怜は言ってたよね?  混乱する私をよそに、怜は唐突に話し始める。  どれもこれも初めて聞くことばかりで、私は、息の吸い方、吐き方さえ分からなくなりそうだった。  怜といると、安心して呼吸をすることができる。ずっと、そう思っていたはずなのに。それは揺るがないもののはずだったのに。私が信じてきたものが、目の前で、ぼろぼろと崩れていく。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加