命尽きるまで

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 日付が変わる頃、怜はようやく寝室に姿を現した。この時になって、やっと私は冷静に話をすることができる状態に落ち着いていた。  納得はしていなかったけれど、それでも、怜の固い決意の前では、私が何を訴えても無駄なのだろうということを悟った上で、話をした。  ベッドに並んで横たわり、ぽつりぽつりと言葉を交わす。    怜は、一旦実家に戻ることになった。兄夫婦が少し前に家を出て、部屋が空いているのだと言う。いずれはアパートかマンションか、部屋を借りるつもりではいるらしい。  それなら実家に戻らなくても、ここにいる間に部屋探しをして、決まり次第そっちに移ったらいいんじゃないの。そう提案もしてみたけれど、怜はゆるやかに首を振った。  けじめだから、甘えちゃいけないよ。離れるって決めたなら、すぐに動いたほうがいい。  一つ、分かっていてほしいのは、澪加のことが嫌いになったから別れるわけじゃないよ。でも、別の場所で生きてみたいってどうしても思ってしまったんだ。  そうか、嫌われてはいないんだ。  その部分だけを都合よく(すく)い取った私は、怜の頬にそっとキスをして、「分かった。別れよう」と、全てを受け入れた。  おやすみ、とどちらからともなく呟き、間もなくして怜の寝息が聞こえ始めた。けれど私がその夜、眠りに落ちることはなかった。  言い争ったことなんて今まで一度もない相手に、どう牙を向けたらいいのか分からなかった。怒りのぶつけ方が分からなかった。  二人だけの小さな世界は、ずっと守られた場所のはずだった。胎児をゆったりと包む羊水のように、絶対的な安心が保証された空間のはずだった。  絶対なんて、無かったのだ。  私は眠れないまま、地獄のような夜を彷徨い続けることになる。
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