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新しい生活が始まって一週間が過ぎた。
我々は通常運転、つまり授業が終わり部屋に戻ってきてルーカスの膝枕で一休みの最中である。
・・・自分の強心臓、豪胆っぷりには自分でもドン引きである。
ちなみに同室の残り二人もドン引きしている。それを不思議そうに見上げながら、スタッドを膝枕し本を読むルーカスは、怖いもの知らずというか世間知らずというか。
初日に荷解きを終え共有スペースのソファーで一息ついている際、緊張と疲労で噛み殺しきれなかった欠伸を見るや否や、いつも通り膝を差し出してきたルーカス。他にも人がいるからと断ったが、見る間に悲しげな表情で
「そう」
と呟いて俯いてしまった。バッ、と勢いよく反対側に座っているレジアとアスピードを見れば、二人が慌てて首を左右に振ってくれる。もうそんな幼子ではないのだから人前でやるには少々恥ずかしいお年頃なのだが、ルーカスが求めてくれているので喜んでその膝に頭を乗せる。そしていつも通り、ルーカスの腹に額を押し当てグリグリする。
「くすぐったいよ」
ケラケラと笑って、スタッドの髪を弄り出すルーカス。スタッドはすぐさま寝息を立て始めた。朗らかな笑みを携えて、スタッドの髪を弄ぶルーカス。
暫くの沈黙を貫いた後、眠ったスタッドを起こさない程度の声でアスピードが囁いた。
「話には聞いていたけど、ずいぶん仲がいいんだね」
目をまん丸に見開き驚いたその表情は、信じられないとでも言いたげである。表情に出してはいないとはいえ、レジアも同じ気持ちだ。
レジアとアスピードは乳兄弟である。なんなら目の前の二人より長く同じ時間を共有しているはずだ。少し前までは手を繋ぐこともあったが、膝枕なんてものは互いにした覚えもされた覚えもない。
ましてやルーカスだって五大貴族の一角、外交を担う外務院を牛耳るアレクサンダー侯爵家の次男でだ。父であるアレクサンダー侯爵は、それはそれは厳しく、その政治手腕は国内外から恐れられ、レジアの父である国王でさえも彼の仕事に対して意見するときは手に冷汗を握るほどだった。その場面をレジアは王城で時々目にしてたが、その様子はまさに冒険譚に出てくるような魔王に第一村人が立ち向かっているようであった。レジアは我が父ながら情けないとは思いつつ、不憫に思えてならなかった。
そんなアレクサンダー侯爵の長子、ルーカスの8つ上の兄レイ・アレクサンダーも父親に違わず厳格な性格である。この国の第一皇子でレジアの兄であるレックス・マクシミランズも
「レイ兄を怒らせてはいけないよ」
と口酸っぱく、事あるごとにレジアに言い聞かせている。
そんな最恐ともいわれる家系の直系に連なり、高位貴族としての教育を受けているはずのルーカスが、躊躇いなく人前で、しかも自分より低位の者に膝枕をするなど非常識である。
「そうかな。二人とあまり変わらないと思うけど」
顔をあげて不思議そうに二人を見るルーカス。
「「・・・・・」」
さも当然のように振舞うルーカス。その様子に、自分たちが間違っているかのように錯覚しそうであった。二人の邪魔をしてはいけないような、得も言われぬ甘い雰囲気に耐えかねてレジアは席を立った。
「・・・・・先に食堂へ向かっている。アスピード、行くぞ」
言われたアスピードが席を立つ。
「夕食にはまだ早いよ」
二人が気を使ったのがわかったルーカスが、慌てて二人を引き留める。
「少し学園内を散策したい。二人は後から来るといい」
適当に理由をつけ歩き出すレジア。それに続くアスピード。
「わかった。じゃあ、またあとで」
そう言って二人を見送ったルーカスであった。
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