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1.目覚める欲望
「大丈夫かっ⁉」
まるで飛び込むかのように顔面から地面に突っ込んでズッコケた俺の視界が、太陽によって透き通ったキラキラ光る淡い金髪と、きめ細かく白い肌にブルートパーズをはめ込んだようなきれいな瞳で埋め尽くされる。まだ幼くふっくらとした丸みを帯びているとはいえ整ったその顔は、いつ見ても惚れ惚れする。
(幼馴染の贔屓目でみても、整った顔してるよなぁ。将来はどんなイケメンに成長すんのかなぁ。……ああ、啼かしたい。喰い散らかしたい。嫌がるこいつの純潔を散らして、快楽に溺れさせて、孕ませてやりたい・・・・)
この世界に生れ落ちて7年目。
そう、今年で齢7歳。
おおよそこの年齢の子どもには似つかわしくない欲望に濡れそぼった思考。性というものとは無縁の純真無垢な、怖いものなど何もない、まっさらな幼さの残る年齢だが、勢いよく地面とキスをするという衝撃的な出来事により、すべてどこかへ飛んで行ってしまったようだ。
迫りくる地面をぼんやりと見つめながら、脳裏に走馬灯のように通り過ぎたのは、所為、前世の記憶というやつだろう。そのおかげか、心の奥底で厳重にロックされていたであろう、ろくでもない欲望に濡れそぼった思考が脳内を駆け巡っている。だがしかし、そのことは微塵も顔に出すことなく、シレッと目の前の少年の手を握る。
この少し焦った声と顔色で俺を助け起こしてくれる少年は、幼馴染のルーカス。彼は、前王姉を祖母に持つ由緒正しい侯爵家の次男。容姿端麗で、透き通るような白い肌と淡い金髪、ブルートパーズのように透き通って美しく可愛らしい瞳をしている。まさに王子様と呼ばれるにふさわしいご尊顔の持ち主である。
そんな彼とは対照的に、暗めのアッシュグレーの髪に濃いグレーの瞳の平凡顔の俺は、隣国との国境を守る辺境伯家の嫡男で、名はスタッド。
貴族社会において侯爵家と辺境伯家には明確な身分の差があり、たとえ子ども同士でもそれは存在する。つまり辺境伯家の俺は侯爵家のルーカスに従う必要があるのだが、それは対外的な話である。親同士の仲がよく、兄弟同然に育てられた俺たちの関係は一応対等である。
そんな俺たちは、来年から王都にある全寮制の学園に通う。そこで貴族としてのマナーや教養を学ぶのだそうだ。わざわざ自領の本邸から何日もかかる王都に行かず家庭教師を雇えばいいと思ったが、何分教師になれるような人材が少なく、優秀な者は王都か地方官僚として王都から各領地に派遣されるらしく、家庭教師を頼めるような人材はそうそう見つからないと、親父に却下されてしまった。
「本当に大丈夫か?・・・やっぱり少し休もう。」
立ち上がってからもたれるようにして自分に抱き着いたまま動かないスタッドを心配したルーカスが声をかける。前世の記憶が呼び起されたことで混乱した頭の中を整理するために、思考の海にトリップしていた俺の手を引いてルーカスが歩き出す。
目指すはちょうど目の前にある、大きな木陰のようだ。ルーカスは木の根元にもたれ、両足を投げ出した状態で座った。そして両膝をたたいて寝転ぶように指示をする。
「スタッド、ほら、ちょっと休んで」
俺の手を引っ張り隣に座らせると、俺の頭を太もも上に寝かせる。
(!!!!????これは!!!膝枕!!!ラッキースケベタイムなのでは!!!???)
前世から持ち越した欲望の所為か、はたまた混乱しているだけなのか。ルーカスが膝枕をしてくれることは珍しくないし、今更何をそんなに興奮しているのかわからないが、とりあえず寝返りを打つ。そしてルーカスの腹に顔を埋め、彼の匂いを目一杯吸い込む。
「ンっ・・・ちょっと、どこの匂い嗅いでんだよ。ちょ、くすぐったいって」
ルーカスはくすぐったそうにして身を捩った。何とも言えない感情が沸き上がる。
「ほら、暫く寝てろ」
そういって、俺の腹をポンポンと一定のリズムでたたき始める。
侯爵家次男のわりに面倒見がよく、どこか世話好きな一面があるルーカス。きっと年の離れた兄が、普段自分にやってくれることを真似しているのだろう。5つ離れた幼い妹の面倒もよく見ているようだし、癖なのだ。こうなるとルーカスは梃子でも動かないので、大人しく従うことにする。
ちょうどいいので、状況を整理しようと思う。
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