1.目覚める欲望

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現在、この世界の総人口の7割は男性である。 約100年前、この世界に女性ばかりが発症した感染症が広がり、人口は著しく減少した。出生率も低下し、世界総人口は感染症が流行する前の8割となった。そして現在も人口は減り続けている。 各国は女性を保護し、病気の原因解明や治療法などの様々な研究を推し進めた。それらの研究の中で、フェロモンを分泌することで異性の性的興奮や感度を高め、妊娠しやすくなる身体を作るための研究が最も注目をされた。この研究は実用化され、男女ともに相手の性衝動やホルモン分泌を活発化させ、より妊娠しやすい体を作ることができるようになった。 結果として出生率は上昇したものの微々たるもので、根本的な解決にはいたっていない。その上女児の出生率は低く、男児ばかりが生まれるため、母体数が変わらず人口増加につながっていない。 長い歴史の中で男性主権が続いたため、女性たちを、子どもを産むためだけの存在としてぞんざいに扱う国もあるようだが、この国では女性たちはとても丁寧に扱われ生涯生活は保障される。その代わり、できるだけ多くの子を生すよう求められるが、相手は王侯貴族の上流階級の者や優性フェロモンを持つ者の中から選り好みできる。また2~3年に一度、国を支える男たちが跡継ぎを残せるように卵を提供する義務もある。 卵は凍結保存され、専門施設で厳重に保管される。それらは使用時に専用の機器で解凍され、受精を行い、専用の容器で育まれる。人工的に子どもを生すこの国家事業は、成功率は60%を上回っている。しかし卵の数に限りがあり、人工授精では女児はほとんど生まれない。このため現在は、男同士でも子がなせるように研究が進められているが、非常に難航している状態である。 その打開策として「皇帝フェロモン」という通常のフェロモンより強力で、男性の妊娠を可能とさせる特異フェロモンの研究が急ピッチで進められている。この皇帝フェロモンを持つ者はアフティ―と呼ばれ、非常に重宝される。 メカニズムとしては、通常より何倍も濃い男性フェロモンを嗅ぎ取ることで相手の身体が錯覚を起こし、妊娠するための身体を作ろうとする。要は、アフティ―と性交渉をすることで女性ホルモンが極端に刺激され、身体が子どもを作らなければいけないと錯覚を起こす。それを、時間をかけて幾度となく繰り返すことで、やがて体内に子宮が生成され、その完成と同時に卵の生成が始まる。卵は半年かけて成長し、受精することで子どもができる。男性が出産する場合は、女性と違い骨盤が開かないので帝王切開で行われる。 この国では貴重なアフティ―を探し出し、保護及び研究のため、10歳になると性フェロモンの検査をし、異性に対してどのくらい有効なのか、性交渉で妊娠をどれくらい促せるのか、受精率が高いのかどうか判断される。優性と判断されれば女性と直接触れ合える機会が与えられ、そうでなければ子どもを希望する場合、専門施設へ通うことになる。 あと3年もすれば、俺たちも検査を行い、自身のフェロモンの有効性を確認することができる。もし自分がアフティ―であれば、男限定でハーレムを作って、孕ませて、子ども作って、ダーリンたちを可愛がるというセックスライフを送るのだ。 アフティ―は一夫多妻が許可されているのだから。 好みの男たちを侍らせ、可愛がり、その体内に精を放ち、孕ませることを許可されているも同然なのだ。 (※嘘である。スタッドの完全なる妄想だ。相手の同意は必要不可欠だ。) たとえ相手が嫌がっても、圧倒的誘因フェロモンによって多少強引にはなるが、強制的に発情させ精を欲しがるように仕向けることができる。アフティ―の精をその身に一度でも受けてしまえば、その人は拒むことができない。これはフェロモンレイプと呼ばれ、厳罰が免れない罰則行為だが、子どもを作ることが優先されるアフティ―が咎められることはない。国はアフティ―に臍を曲げられ、子作りや研究への協力がなくなることの方が一大事なのだ。 アフティ―には人口増加を目指す国の研究に協力する義務があり、この特異なフェロモン遺伝子を残すため、精の提供をしなければならない。選ぶ権利はあるが、基本的に女性からの指名は断れない。確実に妊娠する上、女児が生まれる可能性も高くなるとされているからだ。 その時が来れば、希望通りに相手はするが、あくまでも事務的であり、愛する者たちのように情を注ぐことはないだろう。・・・・・ まだ見ぬ未来に、過大な妄想を繰り広げるスタッドだった。
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