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2.踏み出す一歩
翌日、スタッドの中で溢れ出した欲望は消えることなく、今も体内で渦巻いていた。誠に残念ながら未発達なこの身体では、その衝動を満たすことはできない。そのため、それは加速度的に渦巻き、胸中には苛立ちが募るばかりである。
「スー、大丈夫か?」
今日も昨日同様、ルーカスと共に過ごしている。今は昼寝の時間だ。まあ、昼寝と言っても寝ているのはスタッドだけだが。
ルーカスはいつも通りにスタッドの頭を膝に乗せ、本を読んでいる。今日はどうやら歴史の勉強をしているらしい。その本を閉じて、スタッドの顔を心配そうに覗き込んできた。
「何?」
行き場のない苛立ちを隠しきれず、ぶっきらぼうな返しになってしまう。
「朝から機嫌悪そうだけど、どこか痛むのか?」
昨日転んだことを未だに気にしているルーカス。ペタペタと身体のあちこちを触り、スタッドに怪我がないか再三確認している。
「昨日転んでからなんか変だぞ。ちょっと心配。なぁ、やっぱり医師に診てもらおうよ。何ともないって言うけど、何か変わったこととかないのか?」
眉尻を下げ、今にも泣きだしそうな顔で心配して聞いてくるルーカス。覗き込まれたその顔に手を伸ばし、頬に触れる。
「なんで」
やわやわと撫で遊ぶとルーカスはネコのように目を細め、その手に頬擦りをした。
「なんでって・・・。気のせいだと思うけど、スーの匂い、ちょっと変わった気がする」
「匂い?・・・え、風呂なら毎日入ってるし、昨日も一緒に入ったじゃん。怪我がないこともその時散々確認しただろ。・・・・臭い?」
ルーカスの膝から起き上がり、自分の体臭を確認する。特に変わった気はしないが、体臭の変化なんて自分自身で分かるわけがない。
「いや、臭いわけじゃなくて」
ルーカスは慌てて両手と首を横に振り否定した。そして、スタッドの首筋に鼻を近づけスンスンと匂いを確認する。
「なんか、前より甘い匂いがする」
顔を離したルーカスが、小さく身じろぎする。その表情は、ほんのり赤くなっている気がした。
「ふ~ん・・・・」
気のない返事をするも、視線はルーカスから逸らさない。徐々に顔の赤さが増していく。
「・・・・なに?そんなに見つめられると照れるんだけど」
今度は確実に赤くなった顔を隠すように顔を逸らすルーカス。そんな彼に構うことなく身を乗り出して、ズイッと顔を近づける。後ずさるルーカスの腹に膝を乗せ、それを阻む。
「ちょ、何!?やめろ!なんなの、もう!」
ジタバタ暴れるルーカスを完全に押し倒し、その上にのしかかる。
「重いって!」
抗議するルーカス。
「・・・なあ、俺の匂い嗅ぐとどんな感じがする?」
不安を滲ませた声で呟く。ルーカスが優しく頭を撫で、髪を梳いてくれた。
「どんなって・・・うーん。身体がポカポカして、幸せな気持ちになるよ」
スタッドを安心させるように優しい声色で答え、ギュっと抱き締めてくれる。それをいいことにルーカスの肩口に額をグリグリと押し付け、暫く甘えることにしたスタッド。存分に甘え倒した後、次第に心地よい眠りに誘われて夢の中へ旅立っていった。下敷きにされたルーカスは、スタッドから聞こえる寝息に唖然としたが、起こすことも諦めて自分も後を追うように眠りについた。
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