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父の思い
「どうしてこんなことをした?」
普段は寡黙な末娘の父親がそう訊きました。
末娘は父親の方を向き、こう答えました。
「私なんていらないんでしょ? 7人も子供がいるんだから、末っ子の私なんていらないんでしょ!」
末娘の怒りと絶望と悲しみに満ちた叫びを聞いた父親の目からこぼれたものは……彼女が初めて見る父の涙でした。
父は末娘の手を握り、泣きながら言いました。
「お前は、手の指が10本あるから一つ位なくてもいいと思うか? お前は、手の指が10本あるからそんなに要らないだろうといって1本切られたら痛くはないか? 何人子供がいようと何も変わらん、大事な俺の子供じゃないか。居なくなって平気なわけがないだろう」
何度も何度も末娘の頭を撫で、涙をこぼしていたそうです。
そのあとその親子がどうなったかというと……その親子の関係がどうなったのか、残念ながら今となっては誰にもわかりません。
ただ、父親は家業に精を出し、晩年は息子に家督をゆずり、たくさんの孫に囲まれて過ごしました。末娘はというと、兄弟の中でも珍しく高校まで進学させてもらい、結婚、出産、平凡ながらも充実した生活を送ったということでございます。
親の愛情、親への愛情。そんなものを考えさせられる、父と娘のエピソードでございました。
さて、あなたはどうお感じになりましたか?
あなたが今、自分は誰にも必要とされていないと感じていても、もしかすると……誰かにとっての大切な大切な身体の一部だということも、あるかもしれませんね。
それでは、また。
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