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「夏っぽいことしたい!!」
文化祭のしおりを作るという崇高な任務の真っ只中に、蝉川巧が小学生の如くごね出した。
俺は会長として、この浅はかなパリピを宥めるために仕方なく口を開いた。
「何を言い出すかと思えば……毎年してるだろ。合コンとかナンパとか」
「いやオレ別に合コンナンパに限定してねぇよ!?」
「ていうかそれ、別に夏じゃなくても出来るだろ。年がら年中発情期なんだし」
「待って紀子!! それオレが万年欲求不満みたいじゃん!! 止めてくれよ!!」
柴山紀子の口が悪いのはともかく、言っていること自体は同意せざるを得ない。
「普通に夏イベするなら大人になっても出来る。どうせなら今しか出来ないことをしたいんだよ!!」
「それなら、私たちみんなで何かするっていうのはどう?」
末永小百合が口を開いた。しかも、何やら楽しそうに笑いながら。
この女が笑顔なのはいつものことだが、この笑い方をする時は必ず、ロクなことが起きない。一体何を企んでいる!?
「例えば、みんなでどこかに出かけるとか」
「みんなって、この生徒会メンバーで?」
「えぇ」
「「え!?」」
俺と蝉川の声が重なった。
当然だ。生徒会メンバーでということは、この女もいるのだから。
「このメンバーで集まれるのは、この夏が最後だもの。思い出の一つや二つは、作っておきたいと思わない?」
「あぁ、確かにそれなら今しかできないですね。夏休みが終わったら本格的に学校祭の準備期間に入りますし」
「じゃあ、今度の日曜から五日間、みんなでどこかに泊まりましょうか」
「いいですね! それこそ今しかできないことですよ!」
やけに原田幸太郎が乗り気だ。何となく意外だが、真面目な原田も息抜きをしたい時くらいあるのだろう。
「紀子ちゃんはっ?」
「まぁ、別にいいよ。用事とかないし」
「やったぁ!! 紀子ちゃん大好き!!」
「はいはい。ちょっと暑いから離れてくれる?」
「はーい」
末永が眉尻を下げる。柴山に抱きつく時のみ、いつもの能面のような笑顔とは一転して表情も言動も豊かになるのだ。
(しかし、妙だな……)
この柴山大好き女が、何故わざわざ俺たちも同行させる? 柴山と二人きりの方が絶対良いに決まっているのに、こんなことをして一体何のメリットがある?
(……駄目だ。考えても全く分からん)
まぁ、せっかくの機会だ。それに、かわいい後輩が乗り気なら却下する道理はない。
末永が何を企んでいるかは知らないが、思い出作りとやらに乗ってやっても……。
(――――いや、駄目だ!!)
口を開こうとしたところで、俺は思い出した。今度の日曜から五日間……俺の壮大なる計画の日程と丸被りだ。夏休み最大のイベント、『魔砲少女プリティ☆まなか』の聖地巡礼ツアーに参加できなくなるではないか!!
数多の屍を乗り越え、抽選という戦場を生き延びて掴み取ったチャンスだ。
こんな機会は、もう二度と訪れないだろう。俺の人生の運を使い果たしたも同然だ。原田には悪いが俺は降り――
『え、マジで!! プリティまなかって……あの「あなたにとっておきの魔砲、打ち込んであ・げ・る☆」ってやつ? お前そんなの好きなの……うわ無理きっしょ!!』
『あらあら、意外ね。会長がそんな女児向けアニメが好きだったなんて。紀子ちゃん、知ってた?』
『ううん。普通にキモいな』
『会長、その……まぁ、気にしないで下さい。好みは人それぞれですし』
『ZZZZZZ』
(無理無理無理だあああああ!!)
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