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ハッと我に返ると、交差点の前で私は立ち止まっていた。辺りを見渡すと見覚えのある光景だった。そして、空から雪が降っていた。
「あれ……? ここは…――?」
立ち止まっていた場所から離れると急いで横断歩道を渡った。そして、後ろを振り返った。そこには彼の姿は無かった。気づいたら、さっき居た場所に戻っていた。鞄から携帯電話を取り出して日付を確認した。12月23日になっていた。
「ああ、そうか。今日は私の誕生日か――。バカだな私ったらボンヤリとして歩いてたなんて。それに変な夢まで見ちゃうなんて。都合よく彼が生き返って私に会いにくるなんてさ……。ホント、バッカみたい」
自分の子供染みた夢に軽く溜め息をつくと呆れた。きっと仕事のし過ぎだなぁ。自分の誕生日に彼が天国から会いにくるなんて。
「神様。もし居るなら私に彼をもう一度下さい。他には何も要らないから…――!」
切ない気持ちになると、泣きながら地面にしゃがみ込んで泣いた。大好きな彼を失って、私の世界は色を失った。ただ狂おしいくらいの残酷な思い出だけが、心に刻まれて残っていた。彼と一緒に歩いた道が辛い。隣に彼が居ない事が辛い。ちょっとしたことで、彼を思い出してしまうのが辛い。何もかもが辛くて、そんな思いを引き摺りながら私は歳をとっていくんだ
。いつまでも、いつまでも。
「大好きだったよ、海里。私の初恋の人――!」
冷たい雪が空から降り注いだ。私はそこから動けずに居た。一層、このまま雪が何もかもかき消してくれたら。私の思いも何もかも、彼との思い出も全部。
「彩花っ!!」
名前を呼ばれると彼が赤い傘をさして後ろに立っていた――。
「ッ、海里…――!?」
「も~、探したぞ。なかなか帰って来ないから探しに来た! いつまで待たすんだよ、今日はお前の大事な誕生日だろ?」
「え……?」
「12月23日は彩花の誕生日だろ。忘れたのか?」
「え…海里なの?」
「なに言ってるんだよ、旦那の顔も忘れたのか?」
「えっ……?」
私の目の前に居た彼は少し雰囲気が変わっていた。少し大人びていて髪型も少し変わっていた。それでも見た目は海里のままだった。そして、彼の薬指には結婚指輪が嵌められていた。
「嘘っ…!? その指輪…――!?」
「なんだよ。去年、結婚しただろ俺達? お前の誕生日に俺が婚約指輪贈っただろ。それも忘れたのか?」
「私の誕生日に…――?」
「ああ、そうだぜ。そういえばあの時のお前は、ちょっと様子がおかしかったな。俺がサプライズで、お前に会いに行こうとしたらいきなり電話がかかってきて「来ないでって、私から会いに行くって」必死に言ってたな。なんで俺が会いに行くのわかったんだよ?」
「ッ…――!?」
彼は去年の12月に私の誕生日の日に、会いにくる途中で交通事故にあって亡くなった。それが去年の誕生日に私が彼に会いに行った事になっている。あの時、観覧車から降りた時に私の未来が切り替わっていた。そして、そこには彼との新しい未来があった。
『海里っつ!!』
泣きながら抱きつくと私は彼にキスをした。もう、これが夢の続きでもいい。だってこんなにも私の胸は幸せな気持ちに満たされた。無いはずの彼との未来はそれは不思議な奇跡の夢物語りだった。きっとどこかに気まぐれな神様がいて、私の誕生日に、奇跡を起こしてくれたに違いない。彼の隣で私は一人そんな事を思っていた。彼は隣で「寒くない?」と聞いてきた。頷いて返事をすると海里は私の手を握ってくれた。その彼の掌は温かく、あの頃のままだった。私はそれが嬉しくて彼の腕にしがみつくと隣に寄り添って一緒に歩いた。そして、歩いた雪道には私達の足跡が残った――。
END。
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